ウエイクアップ・ネッド 1999/10/16

「ウエイクアップ!ネッド」(1998年 英)
評価:★★★☆
監督:カーク・ジョーンズ
出演:イアン・バネン、デヴィッド・ケリー、フィオヌラ・フラナガン、スーザン・リンチ
<銀座 テアトル西友 ほかで上映中>


■あらすじ 

高額の宝くじに当選してショック死した孤独な老人の残した当たりくじの扱いをめぐって繰り広げられる村人の騒動の中で、友情や愛情、人倫について考えさせもする、なかなか皮肉の効いた英国テイストたっぷりのコメディ。

■感想

銀座のテアトル西友は、水曜の1000円均一デーということもあって立ち見(座布団の支給アリ!)も出る大盛況。開演30分前に到着しても、残されていたのは最後の3席。それも補助椅子!

とにかく笑える。どのシーンもいちいちおかしい。そして、因習や宗教的抑圧の影も全く感じさせない。倫理もそれどころか、神父や葬儀までも茶化してしまうという神への冒涜とも取れるシーンの連続。極めつけは村の鼻つまみモノに用意された残酷過ぎる運命の仕打ち。
「奇跡の海」や「日陰のふたり」からは想像もできない、イギリス映画の概念を打ち破るような作品。この世界は敢えて言うなら「Mr.ビーン」に近いかもしれない。場内には笑いが止らなくなる人が続出。エンディングでは拍手が沸き起こった。

舞台は南アイルランドの小島にある人口52人の小さな村。
(人数がトランプの枚数と同じなのもなんか示唆的でいい感じ)
アイルランド人が大好きな「Lotto」と呼ばれる宝くじ。
「キャリー・オーバー」と言って、当選者がいなければ次回の抽選に賞金が持ち越されるシステムのおかげで、時に12億円近い一等賞金が発生する。
たまたまその高額賞金の当選者がこの小さな村の住人だと報道されたからさぁ大変。早速田舎者のお節介で、当選者探しが始まった・・・
天国から地獄。やっと見つけた当選者の身寄りのない老人があまりの賞金にショック死していたことから、賞金の行方を巡っての大騒動が始まる。

監督が小さな新聞記事をヒントに思いつき、一気に脚本を書き上げたというこの作品。その着想の奇想天外さに先ずは驚く。故人の賞金を横取りする話ならありふれているが、赤の他人が故人の「遺志」だの「お告げ」だのと真顔で奔走してしまう脳天気さ。そしてその実践がやがて(やむを得ない事情から)村人全体を巻き込んで、「ネッドの残した空前の賞金」という財源の使い道を決める「直接民主主義」的な作業へと発展してゆく。そこにはまるで、「法律」や「世間的常識」は介在しないかのよう。視点は「故人と村人にとってどうすることがいちばん幸せにつながるのか」の一点に絞られている。漂う強烈な「全体主義」。それは、ある意味で村で唯一の「常識派」で「個人の権利や意志」を主張する人物への人々の日常の接し方と、その辿る運命に象徴される(ちょっとやりすぎ)。その全体主義的な幸福感の中で、夫婦や恋人、親子といったささやかな人間関係もまた、程よい幸福へと導かれて行く。

都市化と個人主義が台頭する今日、友情や、共同体の一員として生きることの意味を考えさせられる作品でもある。

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