リトル・ヴォイス 1999/10/06

「リトル・ヴォイス」 (英 1998年) 
評価:★★★★
監督:マーク・ハーマン
出演:ジェイン・ホロックス、ユアン・マクレガー、ブレンダ・ブレシン、マイケル・ケレン
<日比谷シャンテ・シネ、新宿シネマ・カリテほか全国公開中>

■あらすじ
亡父の残したレコードを毎日聴き耽る閉じこもりがちな女の子が、レコードそっくりに様々な歌手の声色で歌う才能を見出されたことをきっかけに、自分の殻を破り、外の広く自由な世界へと羽ばたいて行く。

■感想
 この映画を見ていてふと思い出したのは、女優シシー・スペイセクが自らの声でカントリー・シンガーに扮した「歌え!ロレッタ 愛のために」(トミー・リー・ジョーンズ共演)という映画。幼くして粗野な男の妻となった少女が、夫の支えでトップ・カントリー・シンガーとなってゆく姿を描いた秀作だ。
 本作はその再来かと思わせる。そう、何が凄いと言って、女優でありながら「1000通りの声を持つ天才少女」=LV(リトル・ヴォイス)を何と吹き替えなしで演じていること。そして、最大の見せ場にして拍手をしたいほどの最高の感動を覚えるのは、LVと寡黙な青年との交流でも、ラストシーンでもなく、亡き父の幻影に支えられながら彼女が場末のキャバレーの精一杯の豪華なステージでフルバンドをバックにモンローやジュディ・ガーランドの名曲をオリジナル歌手そっくりの声色で堂々と歌い上げるシーン。これが半端じゃない。演奏と彼女のハスキーでパワフルな歌声が完全に共鳴。まるで我々がキャバレーの特等席にいるかのような異様な臨場感を味わわせてくれる。「ブラス!」の演奏シーンで魅せたハーマン監督の本領発揮、さすがと言ったところ。

 でも、この物語は決して少女のサクセス・ストーリーではない。歌手として成功した女の子の話ではないのだ。題名や宣伝に惑わされないことが肝心だ。
 名演奏こそが目的であり達成点であった「ブラス!」とは異なり、LVの名唱は家族の籠や亡き父の影から抜け出せないでいる一人の晩生な少女が「自信」を持ち外の世界に羽ばたくきっかけに過ぎない。「自立」「外の世界」の象徴としての「異性」であるユアン演じる青年や、「自由」の象徴としての「ハト」を巧みに用いて、彼女の少女から大人への通過儀礼を丁寧に描いてゆく。そして、ささやかだが美しいラストシーン。

 ただ、残念なのは、「ブラス!」もそうだったのだが、途中の盛り上がりに対して、エンディングとそこへ向かう過程のキレが若干悪いこと。圧倒的な熱唱とその直後彼女を襲う危機へとたたみ掛けるクライマックスの余韻に浸っている間に、細かいシーンが急ぎ気味に続き、あっけなく終わってしまう。だからと言って、これらのシーンが無意味な訳では決してない。むしろ、彼女にとって本当に大切なものは何かを、初めて彼女自身の力で考えて行動に移して行くというとても重要なシーン。だから、もっと「タメ」を作って表現して印象に残して欲しかった。これから観る人は、ラスト20分ぐらいの淡々と進む展開を見逃さずにしっかりまぶたに焼き付けて欲しい。

P.S.
 そうそう、「ブラス!」で指揮者を演じたピート・ポスルスウェイトがゲスト出演してました。どこで出てくるか、楽しみにしていてください。

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