黄昏に瞳やさしく 1999/10/03

「黄昏に瞳やさしく」(伊・仏 1990年) 評価:★★★★☆
監督:フランチェスカ・アルキブジ(「かぼちゃ大王」)
出演:マルチェロ・マストロヤンニ(伊)、サンドリーヌ・ボネール(仏)、ララ・プランツォーニ、ジョルジョ・ティラバッシ
=1991年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞最優秀作品賞受賞=
<新宿 シネマスクエアとうきゅうほかで公開中>

■あらすじ 
 孤独で規則的な生活を送る老教授と孫娘との交流を中心に、正解のない一度きりの人生や家族、とりまく社会環境の問題を教授の追憶を描く形式で浮き彫りにしてゆく。

■感想
 表現は悪いが、「とまどう性豪老人」を演じさせたら右に出るものが居ない、と言えるほどに、若い頃とは一味違った名優ぶりを発揮したマストロヤンニの未公開作がまた一つ、我々の前に姿を表わした。

 主人公は、共産党員でありながら資本主義社会での成功者と言える老哲学教授。妻とは別れ、誰の心にも近付かず、誰をも自分の心に入り込ませない彼の孤独な毎日は、一週間単位で綿密に組み上げられた強迫神経症的とも言える規則正しさの中にあった。「実践」を半ば軽蔑し、人生のすべての答えを溢れる書物の中に探そうとする彼。そこへ、妻と別れた息子が幼い愛娘パペレを預けに来たところから物語は始まる。
 そして、いつか18歳になった未来のパペレにあてて、彼がパペレと出会い、生まれて初めて家族や人生と正面から向き合い、経験し、悩み、後悔し、ついに自信ある「正解」に辿りつけなかった1977年の日々に彼女やその両親との間に起こった事柄をしたためた手紙を書くという教授の追憶の形で物語は静かに進む。

 映画においても恋愛至上主義のフランスと、ヴィスコンティに代表されるように「家族」を映画の重要テーマに位置付けるイタリアとの俳優・スタッフが手を結び、物語の上でも見事に両者のテーマが融合されている。そこに、世代間の社会環境や思想の違いが絡み、非常に深みのある脚本に仕上がった。
 そして、それを演じるイタリア・フランスをそれぞれ代表する両俳優の名演。また、長年築き上げた老教授の日課=古い世代の形式的な思想を見事に打ち破り、両親や祖父に人生の示唆さえも与えてしまうオマセで頭脳明晰な孫娘を演じたララ・プランツォーニの素晴らしさ!幼くして「思想」を感じさせる彼女の存在感こそがこの映画を映像として成功に導いたと言ってもいい。マストロヤンニと彼女が手を取り合って野を歩む情景は永遠に観客の脳裏に焼きつくことだろう。

 ちなみに、彼女は後に同監督の「かぼちゃ大王」で高く評価されることになる。
<koala>

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