エリザ 2000/05/05

■「エリザ」(1994年 仏) 評価 ★★★★★
監督/ジャン・ベッカー
出演/ヴァネッサ・パラディ、ジェラール・ドパルデュー
 
■あらすじ 
 孤児院で育った娘が亡き母のかすかな面影を追い、彼女の軌跡を辿り、踏みつけにした者たちへの復讐を果たしつつ、ついに父に辿り着く。

 最愛の男デムーラン(ドパルデュー)にピアニストを続けさせるために身を売り、彼に捨てられ、娘マリー(パラディー)と共に路頭に迷った挙げ句無理心中をした母エリザ。奇跡的に命を取り留めた娘は孤児院で成長し、美しい娘に。持ち前の才覚で孤児たちのリーダー格として慕われる彼女はしかし、万引きと売春詐欺に明け暮れる刹那的な毎日に甘んじていた。孤児院を出た彼女は母の軌跡を、自らの出生とその後の運命を、そしてまだ見ぬ父の面影を追い求める。そして遂に辿り着いた父は、以外にも愛と後悔の人だった。刺し違えるはずだった彼女はそんな父を女として愛し始める。でも娘でもありたい。娘としてその胸に飛び込みたい。でも・・・。

■感想
 「エリザ」作曲者セルジュ・ゲンスブールに捧げられた作品。

 幸薄き生い立ちのせいか若くして大人び、「男」を見切ったように冷めていて、しかも頭脳明晰。成熟していながら清楚。世間に牙をむき続ける激しい気性。母への思い、父への嫌悪と憧れ、不安。やっと見つけた父を前に精一杯背伸びして女を、そして母を演じようとするけなげさ。

 こんなにも屈折し、複雑な人格の持ち主マリーをバネッサはまるでその人本人であるかのように演じる。バネッサの甘く激しく青い声、大きく澄んだ瞳、妖精のような肢体、それらすべてがマリーを表現する。見事。小気味いいリズミカルな場面の展開の中で、彼女は常に画面の中心にあって物語を牽引し、観る者を強く惹きつける。素晴らしい存在感だ。

 そして父を演じるドパルデューがまたいい。破滅の人。芸術の人。愛の人。後悔の人。そんな彼の口から出る「芸術家の仕事は美を作り出すことではなく、美を覆い隠すものを取り除くこと」という言葉が印象に残る。身を売る母を演じた彼女の厚い化粧を拭うシーンだ。

 そしてこの二人の組み合わせは、親娘として男女としての愛情に揺れ動く微妙で美しいマリーと父の関係を見事に表現している。孤児院仲間たちとの交流のエピソードもマリーの人となりをさりげなく表現していて巧い。

 思わせぶりな映像、物語の柱である歌「エリザ」を聞かせ、衝撃のシーンをいきなり見せて観客を引き込むオープニングも憎い。

 余談になるが、ヴァネッサ・パラディの音楽の師セルジュ・ゲンスブールに対するオマージュは並々ならぬものがあるようで、恋人ジョニー・デップとの間に生まれた子供にも、亡きゲンスブールへの敬意を込めて「メロディ」というミドルネームを授けたほど(リリー・ローズ・メロディ・デップ)。

<koala>

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