スローガン 2000/05/05

■「スローガン」(1969年 仏) 評価 ★★★★ 
監督/ピエール・グランブラ
出演/セルジュ・ゲンスブール、ジェーン・バーキン
 
■紹介
 音楽は、フランスギャルやヴァネッサ・パラディをブレイクさせた世界を代表する音楽プロデューサーでもあるセルジュ・ゲンスブールが担当。

 その音楽をはじめ、CFスタジオの調度品の数々〜スケルトンの受話器やデスク埋め込みの電話、回転カプセル型のカラフルなディレクターブースの扉など〜は現代に通用して余りあるポップさ、斬新さ。そこに、劇中と現実が微妙に交差するゲンスブール&バーキンの甘く切ないラブストーリーが展開する。

 愛が退屈し、やがて冷め、新しい愛が芽生え、燃え上がり、現実が水を差し、そこへ新たな愛の矢が撃ち込まれ、古き愛は消長を繰り返しながらも次第に終焉へと向かう。そして決定的な最後を迎えたとき、新たなる愛の予感が。

 CFという感性的な世界に身を置くアーチストが追い求める映像的な非現実の愛の空間。それを提供するのも、現実を持ち込んで破壊するのも、女。彼は現実を逃避しつつ、感性の赴くままに愛の空間に漂い、次々と優れた作品を生み出して行く。劇中に使われるCFはいずれもずば抜けた芸術性と商業性の共存にうならされる。ゲンスブールの終始恍惚とした表情が夢に遊ぼうとする。芸術のステップを上がる度に繰り返されるセルジュの「恋愛沙汰」を手だまにとるように軽くいなす妻の大きな懐もいい。彼女の手のひらの上で、さらに芸術の階段を一歩上がった彼はまた新たな恋に落ちて行くのだろう。

 妻子あるCF演出家セルジュ・ファベルジェ(ゲンスブール)がベネチアCM映画祭でグランプリを獲得。その滞在先で恋人とヴァカンスを楽しむエヴリン・ニコルソン(バーキン)と出会う。程なく二人は恋に落ち、夢の日々を送る。しかし、子供を欲しがり、二人の生活を口にし始める彼女に、次第にセルジュの心は冷めて行く。やがてエヴリンにも別の恋が芽生え、曲折の末二人は別れる。結局セルジュが新恋人と彼女とを故意に遭わせるように仕組んでいるところが、愛の冷めを表す。でもそこに未練と嫉妬も十分にあるところがまた人間らしくていい。そして二度目の受賞を果たした彼は、路上で行き合った女性に新たな恋の予感を感じる・・・

 フランス映画では、女性が子供を欲しがる、というのが男の愛を冷めさせる一つのキーワードとなっている。女性に「子供ができたの」などと聞かされて、嫌な顔でもしようものなら、日本だと非人間扱いされそうだが、フランス男性諸君は、少なくとも映画の中では間違っても「よ、よかったな、おめでとう」といい人ぶったりはしない。女性もできたもので、男なんかアテにしないでプイと出て行ってしまう。夢見る男と現実的な女。この構図は共通でも、対処の仕方はさすが恋愛至上主義のお国柄、といったところか。

<koala>

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