髪結いの亭主 2000/05/05

■「髪結いの亭主」(1991年 仏) 評価 ★★★★★ 
監督/パトリス・ルコント
出演/ジャン・ロシュフォール、アンナ・ガリエナ
受賞/セザール賞監督賞ノミネート、ルイ・デリュック賞受賞
 
■あらすじ
美しい女性理髪師と、ふと店を訪れ求婚した男との愛の10年間。

■感想
 子供の頃から憧れていた女性理髪師。その憧れをそのままに中年に差し掛かった男は、ふと訪れた理髪店の美しい女主人に求婚してしまう。話だけ聞くと荒唐無稽に思えるこの展開がしかし、ロシュフォールから溢れ出す女性への憧れと敬意で満たされた映像からは、何の違和感もなく受け入れられる。

 そしてもっと素晴らしいのは、この女主人がそれを受諾すること。二人とも色気はあるが年齢は不詳。過去も現在も不明。とにかく、主役でさえその人物のディテールについて何ら説明されていないところがこの映画の特徴であり、命でもあるのだ。そしてこの受諾の瞬間に、ドラマはファンタジーへと変化を遂げる。「生活」の香りは微塵も漂わない。ただ、二人がいる静かな、気品に満ちた空間。

 ラストは衝撃的ではあるが、女性はそうすることで永遠の愛の時間を得ようとしたのだし、男は受け取った手紙と妻の残した空間で、やはり永遠の愛の余韻を手に入れたのだ。

 やがて色あせ、変貌すること必定の「最高のとき」。女性はこれを自ら持ち去ることで、男性は時を止めることで永遠に繋ぎとめようとする。

 この作品には、観た者の人生観や恋愛感を変えてしまう魔力が備わっている。筆者koalaが、「太陽がいっぱい」「北ホテル」と共に、フランス映画に強く引き付けられる契機の一つとなった作品でもある。

 監督のルコントはこれ一作で伝説となった。同じく彼の手による「タンデム」「タンゴ」「仕立て屋の恋」「イヴォンヌの香り」にも本作に通じる潮流を感じる。合わせて鑑賞して欲しい作品群だ。

<koala>

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