風花/ネズの木/見出された時/アカシアの道 | 2001/03/22 |
メルマガ刊行の隙間で紹介の機会を失した作品を一挙ご紹介。 何れも全国単館系で上映中。 ■「風花」(2000年 日) 評価 ★★☆ 監督/相米慎二 出演/浅野忠信、小泉今日子、麻生久美子 □あらすじ 昇路を絶たれたエリート公務員と、夢と性のギャップにひしがれる元ソープ嬢。酩酊のなかで出会った居場所の無い二人の男女が、生きる意味を求めて女の故郷・北海道を巡る。 □感想 抑えた演技でここ数年いい仕事を見せる小泉今日子は、本作でも期待どおりのいい味を出している。彼女のしこしハスッパな雰囲気も人物設定と符合していていい。 一方、大ミスキャストは対する浅野忠信。どう見てもエリート公務員に見えない彼の面立ちが既に観客の感情移入を妨げる上、小泉同様役柄と同化する必要のある役柄にも関わらず、細かい演技ではなく存在感で魅せるのが信条の浅野を持ってきたことも大きなマイナスとして作用。彼の演技力不足は露呈し、即興的な仕草はどんどん浅野と役柄とを乖離させてゆく。 展開にも不可解な点が散見される。特に芸術性を売り物にしていない本作にあって小泉の怪しげな<死出のダンス>は不要だし、ラストシーンは浅野に任せるのではなく、ピシっと決めるべきだった。 光石研あたりで再撮影してもらいたいものだ。 ■「ビヨークの「ネズの木」〜グリム童話より」(1986年 アイスランド) 評価 ★★☆ 監督/ニーツチュカ・キーン 出演/ビヨーク ほか □みどころ 「ダンサー・イン・ザ・ダーク」で脚光浴びるビヨークの初主演映画。彼女が長男を出産した直後に撮影された幻の作品である。非現実感を出そうとの意図から白黒で製作されている。 よく考えると背筋凍る怖い内容、ということで最近話題のグリム童話。魔女の継母と継子の確執を描いた「ネズの木」を姉妹の物語に翻案したものをベースに、他いくつかのグリムのエピソードを絡めて描く。物語の隠喩に思いを馳せつつ観ると楽しめるが、映画としての完成度は今ひとつ。 ■見出された時〜「失われた時を求めて」より (1998年 仏・葡・伊) 評価 ★ 監督/ラウル・ルイス 出演/カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベアール、ヴァンサン・ペレーズ、ジョン・マルコヴィッチ □みどころ マルセル・プルースト原作小説の映画化。 正直言って、原作を読んで理解している人以外にはお奨めできない。たくさんの登場人物が次々繰り出す台詞は何れも示唆に富みつつ相互に関連性が無く、全く禅問答の世界。不可解な演出も多く、原作本の助けなしに鑑賞できない点が多い。しかも約三時間と非常に長く、その間打ち続く意味不明の言葉の連続は発狂もの。豪華な女優陣を目当てにする御仁もあろうが、登場場面数は多くは無いので、期待薄。 ただ、原作は従来、映像化が不可能とされていたものだそうで、フランス文学者や研究家の間では、原作を再現度に対して一定の評価が為されているようだ。 ■「アカシアの道」(2000年 日) 評価 ★★★☆ 監督/松岡錠司 出演/夏川結衣、渡辺美佐子、杉本哲太、リリィ ほか □みどころ 近藤ようこの漫画が原作。 適齢期を過ぎようとしている娘と痴呆症を発症した老母とが、再開した同居生活の中で誤解と反目に満ちた積年の思いをぶつけ合い、はじめて互いを理解しあう過程を描く。 近年、難度の高い役柄を着実にこなして実力を増してきた夏川によるエモーショナルでありながら押さえた演技と、彼女に胸を貸すベテラン渡辺のあまりに見事な「プライドある恍惚」の演技にとにかく魅了される。あわせて、演技派を揃えた脇役たちの地に足の付いた演技力も、ドラマに緻密さを増している。本作の魅力は、こうした俳優たちの素晴らしい演技を堪能すること尽きるであろう。 ストーリー面では、台詞の平板さ、展開の唐突さなど、懐の浅さがやや目立つ。また、夏川演じる娘が精神的に追い詰められるにしては、母の病状も母娘の心理的葛藤も物足りない。ラストも、見方を変えればやや都合が良すぎるとも。登場人物も、無駄が無いのことの裏腹として、あまりに展開に<最適>な人物像で固めすぎた印象。 <koala> |