ギター弾きの恋 2001/04/02

■「ギター弾きの恋」(1999年 米) 評価 ★★★★
監督/ウディ・アレン
出演/ショーン・ペン、サマンサ・モートン、ユマ・サーマン
受賞/2000年アカデミー賞、ゴールデングローブ賞各ノミネート
   第21回ロンドン批評家組合賞イギリス助演女優賞受賞(モートン)
<恵比寿ガーデンシネマほかにて公開中>
 
□あらすじ 
 天才的な技量を持ちながら破滅的な生活を送るジャズ・ギタリスト、エメット・レイの、生涯たったひとつの本当の恋。でも、彼が失意の底でそれに気付いた時、彼女は残酷な事実を告げる・・・。

□みどころ
 この映画を観てふと思い出すのは、大道芸人の大男と知恵薄い娘との悲しい恋を描いたフェデリコ・フェリーニ(伊)の名作「道」だ。男はギタリストに、女は物言わぬ娘にとそれぞれ置き換わってはいるが、捨ててから恋に気付く男の愚かさ、それが永遠に失われたことを知った男が打ちひしがれる慟哭の絶望、という構図はそのまま。""フェイク・ドキュメンタリー""、""コメディ作家の撮ったジャズ映画""といった捕らえ方で紹介され勝ちな本作であり、のっけからウディ・アレン本人が物知り顔で登場し、その後も度々登場して物語の進行をせき止めるので、ストーリーへの興味が二の次になり気味だが、基本的には恋物語の王道を行く作品であることもしっかり押さえておきたいところ。
 ところで筆者、ウディ・アレンは正直のところ大の苦手である。どんな題材でも、自らの有能さを見せ付けるように小手先でチョコチョコっと料理して見せる彼の姿勢には、創造の熱情を感じられないということと、それ故に彼の繰り出すユーモアが胸に深く切り込まない、つまり、妙にあっさりしているということ、あとは生理的な問題で。
 でも、本作に限っては、彼がいくらのっけから、そして幕間に度々、例の困り顔で長々とコメントを述べてうんざりさせようとも、名優にしてはまり役のショーン・ペンの素晴らしい演技と、そんな彼が演じる破天荒な主人公を、物言わぬ替わりにあまりに豊かな表情と愛おしさで虜にしてみせたサマンサ・モートンの魅力とが遥かにそれを凌駕。「道」で描かれた愛が時代を超えて普遍的なものであることを示して見せた。特に、娼婦まがいのエモーショナルな役で衝撃を与えた前作「アンダー・ザ・スキン」とは一転し、しかも台詞を使えないというきわめて困難な役を、技巧を弄することなく、役と同化した内からの演技で演じたサマンサの素晴らしさが光る。
 そして、購入したパンフレットを読むと、そこには監督が本作に仕組んだ壮大な或る騙しの構図(観てからのお楽しみ。え?もう知ってるって?それは残念!)が書かれてある。いや、これには一本取られた。完敗である。この事実を知って本作を思い返すと、監督のコメントシーンその他諸々の不愉快に思えた演出が、全く異なった意味を持ってくる。
 そういうことなので、この作品に限っては、ウディ・アレンが好きな人には言うまでも無く、苦手だという人たちにも是非お奨めしたい。「自称ジャズ・オタク」なんて人も、ひと泡吹かせられるかも。

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さて、本作に関連して、主演の二人、ショーン・ペンとサマンサ・モートンの出演作からオススメを一作ずつ簡単に紹介しておこう。
■「Uターン」 (1998年 米) ★★★★
監督/オリバー・ストーン
出演/ショーン・ペン、ニック・ノルティ、クレア・デーンズ
□みどころ
 ナチュラル・ボーン・キラーズに続く、オリバーお得意のカットビ・ナンセンス・ムービー。
 男は仲間の金を持ち逃げする途中、車が故障。三叉路で行く先に迷うが、「Uターン禁止」の標識に従い、右折して最近のアリゾナの田舎町へ。しかし、そこは時空の穴のような町。変人の修理屋の相手をするのを嫌って町に食事に出かけたことから、運命はどんどん悪いループに迷い込み、町から脱出する術を失う。
 運命の悪循環の恐ろしさと、誰も信じられないという極限状況をコミカルに描くが、笑えない怖さがあふれる。盲目(を装う)老人を運命の予言者としてナビゲート役に据えたのがうまい。ショーン・ペンが監督の意図を見事に表現して演じきっている。
オフィシャル・サイト
http://www.pioneer-ldc.co.jp/movie/u-turn/index.html

■「アンダー・ザ・スキン」 (1997年 英) ★★★
監督/カリーヌ・アドラー
出演/サマンサ・モートン、クレア・ラシュブルック、リタ・トゥシンハム、クリスティン・トレマルコ、スチュアート・タウンゼント
□みどころ
 姉ばかり可愛がる母・・・。母の愛に飢えた少女が、その母の死を機に、破滅的な行動へと駆り立てられる様を淡々と描く。彼女は、母のコートとかつらをまとい、派手な化粧で夜の街を徘徊し、次から次へと男を漁って行く。その矛先は遂に姉の夫にまで達し、姉妹の確執は頂点に達するが、そこは血を分けた姉妹のこと。真のぶつかり合いのあとには、真の理解が訪れる・・・。
本作が実質的映画デビューとなる新鋭サマンサ・モートンが体当たりでこの難役を演じきり、ボストン批評家協会賞・英国インディペンデント・フィルム賞で共に最優秀主演女優賞にノミネートされる。

<koala>

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