花様年華 2001/04/08

■「花様年華(かようねんか)」(2000年 香港) 評価 ★★★★
監督/ウォン・カーウァイ
出演/マギー・チャン、トニー・レオン
受賞/2000年カンヌ国際映画祭最優秀男優賞ほか受賞多数
<渋谷ル・シネマほか札幌・大阪・神戸・福岡単館系劇場にて公開中>
 
□あらすじ 
 アジア激動の1960年代。香港の安アパートを舞台に、人生に臆病な既婚の隣人男女が繰り広げる、限りなくプラトニックな愛のかたち。

□みどころ
 「花様年華」とは、「花様的年華」、つまり、咲き誇る花のような年齢のことで、女性が最も輝いている時を指す。
 出会ったその日に体を重ねあう。ハリウッド映画やフランス映画が垂れ流すそうした""安易""な恋愛模様に慣らされた我々にとっては、本作の主役たちが見せるプラトニックぶりは逆の意味で衝撃的とも言える。だが、それ故に、触れ合いそうで触れ合わないその微妙な距離感は限りなくエロティックである。そして、二人は互いの辛い夫婦関係のはけ口としてのセックス・パートナーを求めていたのではなく、その孤独を癒す憩いの""場所""を互いの中に求めていたのだ、ということがより強調されるのである。肌の触れ合いで束の間満たされようとする、動物的で、ある意味子供じみた逃避よりも、遥かに""大人""なのだ。そして、プラトニック故の汚れ無き映像と主人公の葛藤は、観客の心により深く印象を刻むことになる。
 本作は、結ばれないがために迷走する二人の軌跡に、香港という土地と1960年代という時代背景に対する監督の思い入れを交えて描かれている。ただその思い入れが、中盤まで二人の心象世界を中心として私的に進行したドラマの流れに、ドゴール将軍のカンボジア訪問という歴史的事実が記録映像という形で割り込むという唐突さと、二人の思い出の封印をそのカンボジアの、アンコールワットという地で行うという仰々しさを招いている。挙句、そのアンコールワットの象徴的な映像で終わるという美学の犠牲となった説明不足を、主人公の心理を字幕で読ませるという、反則とも言える処理で埋め合わせざるを得なくなってしまった。賛否あろうが、筆者としては最後まで私的で内省的な表現を貫いて欲しかった。時代背景は二人の馴れ初めや恋愛の過程に重要な影響を与えていないのだから。「カンヌ」を意識した監督の勇み足だろうか。
 こうした思い入れの分だけの冗長さや、プラトニック故の遅々とした展開を包み込み、大人の男女の臆病な恋を詩的で華麗に演出するのは、あまりに効果的に用いられたナット・キング・コールによるラテン・ミュージックと、映画「夢二」のテーマ曲。ナット・キング・コールの選曲は、監督の幼少時代に彼の母親が愛聴していたというのがその理由。しかし、まず曲ありき、とも思える程に、まるでダンスを踊るように曲に合わせて身をこなす二人の演出は見事。本作では、楽曲も重要な「主役」だ。

+++++++++++++++++++++++関連作品紹介+++++++++++++++++++++
 プラトニック・ラブ不朽の名作といえば、近くリメイク版が公開される「クレーヴの奥方」とデビッド・リーン監督の「逢びき」。今回は何れもビデオ化されているこの二作品を簡単に紹介しよう。

■「クレーヴの奥方」(1961年 仏伊) ★★★★☆
監督/ジャン・ドラノワ
出演/マリナ・ヴラディ、ジャン・マレー、ジャン=フランソワ・ポロン、アニー・デュコー
□みどころ
 フランスのマダム・ド・ラファイエットの小説『クレーヴの奥方』をジャン・コクトーが脚色。
 美しく貞淑なクレーブ皇太子妃(ヴラディ)は、義母王妃の愛人で名うてのプレイボーイであるヌムール公とプラトニックな恋に落ちる。しかし、熱情的なヌムールに対し、彼女はそんな自らを恥じ、優しい夫君への忠節を果たすべく、夫にも相手の名を告げぬまま自らの心を自制により封印して、郊外の別荘に蟄居してしまう。王妃の側近の陰謀で妻の意中の男の名を告げられたクレーブ皇太子は失意の死を遂げ、もはや恋の障害が無くなってなおさら、クレーブ皇太子妃は隠遁の度を深め、次第に心身を衰弱させてゆく。ヌムールの失意も大きく、出口の無い不幸が二人を包み込む。ある日彼女は突如隠遁を解き、彼を迎え入れるべく文をしたためる。しかし、邸を訪れた彼を待っていたのは・・・
 貞淑は恋をも禁じるのか、恋心を抱くことは不貞か、愛のない相手に貞節を尽くすのは美徳か、服喪とは生者の為或いは死者の為にするものか、恋情を自制することは美徳か罪か。観るものに無数の問いを投げかけてくる美しくも悲しいひとつの恋の物語である。コスチューム・プレイの王道を行く荘厳で絢爛たる装束。「赤いマフラー」というラブアイテムの設定の妙。そしてヴラディの高貴で儚げな美貌。すべてに於いて完璧なアーカイブ級作品。

■「逢びき」(1945年 英) ★★★★☆ 
監督/デビッド・リーン
出演/シリア・ジョンソン、トレヴァー・ハワード
□みどころ
 毎週木曜日、一人で町に出ての買い物と映画鑑賞を楽しみにしている幸福な人妻が、ある日の帰宅途中、駅で通過列車を見送った際に目に入ったゴミを取ってもらったことがきっかけで、妻子持ちの医師と親しくなる。二人は木曜日に映画鑑賞や食事といった軽いデートを重ねるが、次第に深く愛し始め、妻は夫に嘘をついてまで逢い引きを重ねるようになる。そして嵐の夜、医師の友人の車を借りてドライブをした後、彼女は一度断るが結局不在の友人宅で待つ医師の許へ。しかし友人が不意に帰宅。彼女は何事もなく逃げ出した。このままではいけないと悟った医師はアフリカ行きを決意、彼女に別れを告げる・・・
 帰宅して放心状態になる彼女に夫が話し掛ける言葉が最高。この瞬間、彼女のみならず、観客も緊張の糸が切れ、涙がとめどなくあふれだす。

<koala>

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