アメリカン・サイコ 2001/05/21

■「アメリカン・サイコ」(2000年 米) 評価 ★★★☆ 
監督/メアリー・ハロン
出演/クリスチャン・ベール、ウィレム・デフォー、ジャレッド・レト、ジョシュ・ルーカス
<東京恵比寿ガーデンシネマ。ほか北海道・大阪・神戸・京都・福岡にて公開中または公開予定>
http://www.amuse-pictures.com/bateman/index.html
http://www.minipara.com/movies2001-1st/american/index.shtml

□あらすじ
 若くして一流企業の経営陣に上り詰め、一流の住居、一流のスーツ、一流の化粧品に身をやつし、<名刺のデザイン>や<住居の質と格>ごときで仲間たちと全プライドを賭けんが如く競っては優越感に浸りまた敗北感に打ちひしがれる幼稚さを共存する種族・ヤッピー。その一角を成す主人公ベイトマンは、自己矛盾のはけ口として、夜毎人間を惨殺して歩く殺人狂という別の顔を持っていた。精神のバランスを取っていたはずのその夜の顔は次第に歯止めを失い、親友にまでその刃を向けたことで彼は追い詰められる。そして遂に錯乱。万事休す、観念した彼だったが・・・

□みどころ
 1980年代ウォールストリートを舞台に、未熟な精神のままエグゼクティブになってしまった<おぼっちゃまくん>が、自己防衛的に醸成した殺人鬼=シリアル・キラーという夜の顔に次第に食い尽くされてゆくさまを描き、発禁騒動まで引き起こしたブレット・イーストン・エリスの同名小説をもとにした異色作。

 コンセプトとしては、自ら作り出したハイド氏という陰の人格がコントロールを失ってしまうジキル博士の悲劇に深く通じるものがある。ただし、本作では結末に意外な仕掛けが仕組まれていて、それが物語を平凡な悲劇的・絶望的帰結へ向かわせず、「マジ?ウッソダロー!?ヒュー!!」ってななんとも痛快でエンドレス・シリアルな感覚へと導いてくれる。正直ちょっと退屈さを覚えるほどに一本調子に壊れ、追い詰められてゆく主人公を描き続けるクライマックスまでの一時間半が、ラスト10分ほどの目を疑う展開に対する驚きによって一気にリカバーされる。「ショーシャンクの空に」的手法である。そして、解釈によっては、錯乱こそ真実で、すべての記憶が主人公の妄想の産物ではないのかというもう一つの「解」が見え隠れし、ストーリーは多重性を帯びてくるのだ。どう受け取っても面白い脚本。それこそがこの作品の魅力だ。

 もう一つの魅力は、ナルシスト、サディスト、幼稚、冷静、容姿端麗、女性に対する底知れぬ冷酷さ、秀才、そして殺人鬼。こうした多重の人格が宿った人物像を見事に具現化して見せたクリスチャン・ベールの怪演ぶり。彼をキャスティングしたスタッフにも拍手!である。

 なお、本作はサイコだの殺人鬼だのとおどろおどろしいうたい文句が踊ってはいるが、サイコ・スリラーではあってもスプラッター・ホラーでは決して無い。行為の実行を捕らえながらもハラワタを写さないという品のある映像に終始する。これは、観客への配慮というよりも、何よりもスーツや純白に塗り上げられた室内を血で汚すことを嫌う主人公に<気を使った>のだろう(椅子の下に新聞紙、は笑える)。だから、そうした方面への期待を持って観ようとする向きはご一考を。

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 筆者はサイコ・スリラーやホラーと名のつくものはほとんど嗜まない。そこで、関連作として、上でも引き合いに出した「ジキル博士とハイド氏」関連作品を二本紹介しておこう。

■「ジキル&ハイド(MARY REILLY)」(1996年 米) ★★★★☆
監督/スティーヴン・フリアーズ
出演/ジュリア・ロバーツ、ジョン・マルコビッチ

□みどころ
 ジキル博士邸で奉公するメイド、メアリー・ライリーを主人公とする新解釈。
 メアリーに秘めた恋心を抱く博士の心の闇、そして自由の権化として、博士の病を癒やす薬の副作用として出現する人格、ハイド氏。ハイドはメアリーに恋情を露わにアタックすると共に、ジキルが心憎く思う相手を次々殺してゆく。メアリーはハイドのの愛を強くは拒まず、時に彼をかばい助ける。遂にハイドは要人を殺害し、事件のもみ消しが不可能となるに至って、博士はハイドを永久に封印しようとするが、最早薬でのコントロールは効かない状態となっていた。ハイドはメアリーに、自分とジキルが同一人物であることを告白。メアリーはハイドの心を受け入れる決意をする。しかし・・・。
 ほとんどノーメイクのジュリアが寒気を覚える程美しい。博士、そしてハイドの彼女に対する想いが心を打ち、身分の範囲内で精一杯博士の愛に答えようとするメアリーの思いやりが伝わる。

■「ジキル博士とハイド氏」(1941年 米) ★★★
監督/ビクター・フレミング
出演/イングリッド・バーグマン、ラナ・ターナー、バートン・マクレーン、ドナルド・クリスプ

□みどころ
 教授令嬢との結婚を目前に控えた新進気鋭の臨床研究医ジキル博士。本作では、令嬢との結婚と引き換えに、人間としても研究者としても、多くの欲望を捨てねばならない博士の抑圧された心理が自らの秘薬により「悪」の分身ハイド氏として現れ、溜飲を下げるおいう、人間の心の闇に焦点を当てたストーリー展開になっている。
「美女と野獣」を想起させる、当時としては画期的とも言えるジキルとハイド相互の変身過程の特撮が目を引く。「善」と「悪」。キリスト教文化が好むこの二元的価値観を、「はにわ」のように小さく表情のない造作から<血走る眼と歪む口元>への変転の演出で表現する。同一人物とは思えない見事な変身ぶりだ。

<koala>

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