幼なじみ 2001/05/31

■「幼なじみ」(1998年 仏) 評価 ★★★☆ 
監督/ロベール・ゲディギアン
出演/ロール・ラウスト、アレクサンドル・オグー、アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイラン
受賞/1998年サン・セバスチャン国際映画祭三部門受賞
<シネスイッチ銀座ほか、神奈川・大阪・京都・福岡にて公開中/予定>
 http://www.minipara.com/movies2001-1st/osana/index.shtml

□あらすじ
 幼い頃からずっと仲良しのクリマとベベ。いつしか二人は成長し、友情は恋へと変わって行った。遂に結婚を決意した二人がささやかな暮らしを始めた矢先、思わぬ不幸が彼女らを引き裂く。いきなり直面した社会の現実に自らの力で立ち向かうにはあまりに幼い二人。救いの手を差し伸べる者、無関心を装う者。事件をきっかけに、家族それぞれの家族に対する思いがあらわになってゆく。そして、この小さな家族の問題の背後に、人種差別、移民、里親制度、不況、宗教、ユーゴ紛争といった欧州社会が抱える問題が浮かび上がる。

□みどころ/考察
 主役は当然、幼なじみの白人の少女と黒人の少年。なのだが、物語の視点は常に、二人の<今>に置かれ、一丸となって娘を守るクリマ一家と、温度差を露呈するベベの親兄弟を対照的に描いてゆこうとし、そこへさらに親たちの歴史までを絡める。そして、先に述べた人種差別、移民、里親制度、不況、宗教、ユーゴ紛争だ。
 正直のところ、詰め込みすぎである。それがせっかくの素敵なテーマを台無しにしてしまっている。「幼なじみ」。いつもいっしょ。無邪気な友情が愛情に変わる瞬間。そして愛の結実。新しい生活。未熟な二人を襲う社会の試練。素晴らしい視点だ。トリュフォーなら、このテーマ一点に焦点を当てて、白人どうしの少年少女を題材にピュアなドラマを作り上げていたろう。どちらか一方を養子に設定すればドラマの契機としては十分すぎるほど「幼なじみ」という着想自体に力がある。
 映像の俳句とも言える二時間の芸術である映画には、複数のテーマは不要である。人間たちが繰り広げる無限のドラマの中から、珠玉の一滴を映像化して観客の胸へ届ける。それこそが映画というものだと筆者は考える。
 複数のテーマを詰め込むことの弊害はまた、それぞれのテーマに対する掘り下げが浅くなると言う点にも現れる。本作でそれは顕著。例えば、人種差別。本作では、悪玉警官ただひとりが差別感情を担っているが、本来であれば、クリマの家族の誰かが娘と黒人との交際に忌避感を顕にする方が自然だろう。結婚や妊娠に際してもクリマの家族が妙にものわかりがいいところが不自然に感じられる。またベベの両親にしても、なぜ黒人の養子なのか。しかも二人。その説明が不足している。いわんや、宗教やユーゴなどその他のテーマをや、である。

 そんな散漫な脚本にあっても、観客をスクリーンに惹きつけ続けたのは、やはり主役のロール・ラウスト嬢の母性に満ちた優しい表情のおかげだろう。彼女はかつてジュリエット・ビノシュ主演の名作「プロヴァンスの恋」に応募するも落選した過去を持ち、そのときの縁で抜擢された本作がデビュー作となった。特に美形なわけではないが、そのつぶらな瞳とふくよかな頬には、16歳にして異性の愛を全身に受けた喜びと、出産とフィアンセの受難ということに対する隠し切れない大きな不安、そして、根拠無き確信に満ちた、試練の克服に対する強い意志のすべてが同居している。将来の展望については未知数だが、本作に限っては、彼女を置いて他にないぐらいに適役だと言い切ることができよう。

 このラウストを始め、国際的には無名ながらも地に足の着いた演技で物語を引き締めてくれる実力派俳優陣の名演技が光るが、異彩を放つのは、「レオン」でのゲイリー・オールドマンを思わせる怪演で人種差別主義の警官を演じたジャック・ピエレ。彼の偏執的な眼差しは凍てつく恐怖感とともに「差別」という人間の心の闇を観客に強く印象付ける。
 他の俳優たちも、フランス、ひいてはヨーロッパ全体が抱える問題を全て描き出そうとする、焦点が散漫で感情移入の非常に難しい脚本を懸命に演じ、全体として人間の温かい本性を描き出すことに成功している。

 はたして、二人に再び幸せは訪れるのだろうか。それとも、フランス社会に横たわる社会問題の中で彼らのちっぽけな営みは踏み潰されてしまうのか。幾度となく希望と絶望とが交錯し、最後まで結末を予測させない展開は退屈を感じさせない。そして、上で批判的に述べた社会問題の詰め込みにしても、文化を学ぶという洋画のもう一つの効用に視点をあわせれば、
本作ほど総覧的にフランスやヨーロッパの現実を「おさらい」してくれる作品は非常に貴重ではある。いろいろ文句を述べ立てている割には、観て良かった、と感じる作品。また、観る人によっていろいろな視点が取りうる作品でもある。ぜひ劇場に足を運んでみていただきたい。

<koala>

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