ファイターズ・ブルース 2001/06/03

■「ファイターズ・ブルース」(2000年 香港) 評価 ★★★☆ 
監督/ダニエル・リー
出演/アンディ・ラウ、常盤貴子、インティラー・ジャンルプラ、アピチャヤ・ハナサナポン
<全国ワーナーマイカルにて公開中>
 
□あらすじ
 王位に君臨しながらも、手を染めた意に添わぬ八百長によって忌まわしい事件とともに破滅した元ボクサー。長い服役を経て出所した彼は、恋人の死と愛の結晶の存在を知らされ、まだ見ぬ我が娘を追って一路、タイへと向かう。そして、彼女が母づてに心に抱き続けたヒーローとしての父の物語を完結させるために、無謀な戦いに挑んでゆく・・・

□コメント
 自宅所沢から10キロ離れたワーナーマイカルふじみ野(三芳町)へ、雷雨を衝いて1時間自転車を駆っての鑑賞。そう、この作品は、当日鑑賞券1000円と格安なかわりに、全国のワーナーマイカルでしか上映されていないのである。人の多い都心も混みあって大変だが、映画をわざわざ田舎に観に行くというのも、不便なものである。ま、おかげでシネコン(=シネマ・コンプレックス;一つの施設に大小のスクリーン(映画館)が10前後ある複合映画施設)というものを初体験。廊下の両側にびっしりと並ぶそれぞれの映画館の入り口。その中でいろんな作品が同時に上映されているかと思うと、何だか映画祭に来ているような興奮を覚えてしまう。高営業効率の施設形態なので、一本1000円程度で観られれば、2本3本とハシゴできるのだが。

 さて、映画の話。
 「もう一度逢いたくて〜星月童話〜」の成功を受けての常盤貴子香港進出第二作である。今回の役柄は、日本を離れ遠くタイのバタヤ近くで孤児院を切り盛りするワケありの女。前作ではお姫様扱いの一面もあった常盤だが、本作ではもう、アジアン・アクトレスの一人として、完全に作品の中に溶け込んでしまっている。今回は、主人公の元ボクサーが宿念を果たすのを優しくサポートし、時に道を指し示すという陰に徹した脇役に近い役回りであり、演じる人物の性格や境遇もあって演出面でも彼女は押さえ気味。彼女目当てに観る御仁には、少し物足りない感じかもしれない。

 それにしてもこの作品、広東語、タイ語、英語、そして日本語までもが飛び交う、まるでタモリの四ヶ国語マージャンのような豊かな国際色ぶり。そういう点でも常盤は脇役ながら本作にとってかけがえのない存在なのだ。ブームが急速に消え去って以来模索の続く香港映画界だが、ボーダーレス時代に突入し、こうした汎亜細亜的な着眼点は非常に将来性を感じる。今夏公開される「恋戦沖縄」も、香港スターが沖縄を舞台にアクションを展開すると言うもので、なかなか面白そうである。
 日本のアーティストたちは、世界進出と言えばなんでもアメリカ、ハリウッドと考えてしまうようだが、文化が全く違い、一般の日本人たちも社会に溶け込んでいない西欧に飛び込んだところで、まず需要がない。日本人が重要な役柄を占める脚本なんて、めったに出会うことができないし、客もさして望んでいない。
 それに引き換え、アジアはやはり日本民族の生まれ出た胎盤のようなところだ。第一違和感がまったくない。日本人を巻き込んだ物語設定に無理が無いばかりか、必然性さえある。台湾や韓国には、日本語を巧みに駆使して日本とビジネスで渡り合う人たちも多い。香港が従来のカンフーアクション一辺倒の路線と一線を画し、こうしたヒューマン・ドラマを多作し始めた今、もっと日本人俳優も積極的に進出すべきだろう。そして逆に、日本の監督も目をこの地域へと広げるべきだ。特に東南アジアのこの混沌とした雰囲気は、ドラマの着想を無数に呼び起こすポテンシャルに満ちている。
 本作は、民族や国境の縛り、そして過剰な西洋崇拝をも解き放って、日本という国の根ざす世界を再認識させてくれる、非常に刺激的な真のアジアン・ムービーである。

□■□■□■□■□■□<関連作品の紹介>□■□■□■□■□■□■□

「もういちど逢いたくて〜星月童話〜」(1999年 中日)★★★★
監督/ダニエル・リー
出演/レスリー・チャン、常盤貴子

□あらすじ
 香港人青年実業家との結婚と香港移住を目前にして、不慮の事故でフィアンセ達也(レスリー)を失った女性瞳(常盤)。失意の瞳は達也の残した夢を辿るため一人香港へ。しかし彼女はそこで、達也に瓜二つの潜入捜査官、石家宝と運命の出会いをすることになる・・・

□コメント
 悲劇、刑事アクション、恋愛。危険な男と異国の無垢な娘。これ以上は望むべくも無い欲張りな設定に、香港映画界の雄と日本TVドラマ界の女王という贅沢なキャスティング。ともするとポテンシャルを持て余して企画倒れに終りかねないこのプロジェクトは、安易に三枚目路線に走らない脚本の完成度の高さと俳優陣の照れの無い引き締まった演技によって大成功を納めたと言えるだろう。
 ハードボイルドとラブロマンスのバランスが見事で、緩急のコントラストが効いた展開と読めない結末に、終始引き付けられっぱなしの2時間。何と言ってもレスリーの渋さ、カッコ良さにシビレてしまう。常盤も、大部分を占める慣れない広東語での台詞にも関わらず、健気かつ対等にスケールの大きな男を愛するヒロインを至極自然に演じている。
 香港映画にありがちな悪ふざけもなく、日本のTVドラマのようなスケールの小ささも無い。香日映画の個性が見事に融合し、未だかつてない無国籍性という合作映画の新境地に達していると言えるだろう。大推薦。
 惜しむらくは、映画のスケールの大きさに水を差す森高歌う主題歌。折角の感動が、一気に日本のTVドラマを観ている茶の間の雰囲気にクールダウンさせられてしまう。残念。

<koala>

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