ココニイルコト 2001/07/01

■「ココニイルコト」(2001年 日) 評価 ★★★ 
監督/長澤雅彦
出演/真中瞳、堺雅人、中村育二、小市慢太郎、黒坂真美、原田夏希、阿南健治、不破万作、近藤芳正、島木譲二、笑福亭鶴瓶
 
□あらすじ
 上司との不倫の終焉とともに大阪支社へ配転となった広告代理店勤務のコピーライター相葉志乃。
 傷つくことを恐れる余り輝きを失った彼女の心を、本音と諦観の街・大阪の風土と、それを象徴する前野(堺)の「ま、ええんとちゃいますかぁ」という口癖が、優しくほぐしてゆく。

□感想
 記念すべき真中瞳映画初出演・初主演作。

 電波少年で独特の存在感を見せ、TVドラマに出演、そしてニュースステーションのキャスターまで務めるトントン拍子の快進撃を続けるこの瞳君は、やはりタダモノではない。そのことをこの作品で実感することができる。不器用な人である。トツトツとした語り口に台詞回し。垢抜けてなく、際立った美形でもない。スタイルも、悪くは無いけど、この程度のコならどこにでもたくさんいる。なのに、こうしてキャメラのフレームに収めてみると、まるで彼女の体の周りに真空のバリアが形作られているかのように、無垢で飾らないがゆえに、容易く触れることが許されない、<素>のままの無防備なひとりの女性の放つ強いオーラに圧倒される。それは、こうした映画のスクリーンに限らず、テレビの画面であっても変わらない。彼女が登場していると、なぜか眼が釘付けになってしまう。それは、彼女のたどたどしさが呼び起こす父性本能、といったものとも違う。こんな<女優>、ほかに思い当たらない。
 ほとんど素人と言ってもいい彼女を主役に迎えて製作された本作。ところが、終始自然体で存在感満点の演技をする彼女に対して、脇を固めるはずのベテラン共演陣はと言うと、舞台演劇出身者で固めたためか、肩に力が入りすぎの準主役・堺をはじめ、みんなそろってぎこちない演技が目立った。顔の表情は派手に作るのだが、感情が空回りして体からにじみ出てこない。
 そこには、<大阪>という土地柄のもつ独特の温かみが重要なポイントであるにもかかわらず、そもそも堺とその妹役・原田が共に大阪ネイティヴではなく、大阪弁がむちゃくちゃだということも大きく響いているだろう(皮肉なことに、大阪初体験という設定のはずの真中が実は大阪出身!)肝心要の「ま、ええんとちゃいますかぁ」のイントネーション、これが微妙にシチュエーションとズレている。大阪弁は、同じ言葉が持つイントネーションのバリエーションが標準語などと比べて桁外れに多い。それを非ネイティヴが言い分けるには相当の鍛錬が必要(ちなみに、筆者が非ネイティヴの大阪弁使いとして唯一高評価できるのは、NHK朝ドラ「ふたりっ子」の千葉県出身・岩崎ひろみ。彼女の大阪弁は標準語シャワーでいささか混乱している地元ネイティヴも真っ青なほど、完璧であった)だ。土壌としての面白さから安易に大阪を舞台に選ぶ小作品が多いが、予算と時間の無さから、不十分な方言指導のまま強引に製作され、全てを台無しにしたものがいかに多いことか。本作もその轍を踏んでしまっている。聞けば監督は秋田・・・。イントネーションへの配慮など、望むべくもないか。
 そんな中で、広告発注主であるおもちゃ屋社長を演じた島木は、演技と台詞の全ての面で安心感があった。吉本新喜劇のメンバーは芸達者な関西弁使いぞろいである。中途半端はキャスティングをするのなら、大阪方はすべて吉本や松竹といった喜劇役者たちからキャスティングするぐらいの、言語に対するを持って製作に当たって欲しかった。ストーリーがいいだけに、非常に残念である。
 なお、主題歌はスガシカオが担当。

<koala>

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