2001年上半期ベスト5 2001/07/12

 筆者にとっては、当たり外れの非常に大きかったこの半年。5作品を選ぶことにさして苦労はしなかったが、その順位となると悩まずにいられない。見栄えを考えて一応以下のように並べてみたのだが、まずは、同率一位と考えていただいて結構。年末には同作品群でも順位が入れ替わっているであろうことが十分想像できる。
 ランキングにはメジャー作品が目立つかもしれないが、近年、名脚本の発掘にきらめきを見せるミラマックス社の台頭もあって、ミニシアター系作品とメジャー系作品との境界線が非常にあいまいになっていることを反映したものと受け取っていただきたい。通常はミニシアター系と呼ぶべきヨーロッパ系の作品でも、ひとたび大ヒットすれば、同監督の作品は次回よりメジャー系の仲間入りだ。まだまだマニア受けに過ぎなかった「ニュー・シネマ・パラダイス」に続いての「海の上のピアニスト」が大ヒットを勝ち得たことを受けて、「マレーナ」が、その典型的なヨーロッパ風味にもかかわらず全国展開しているのがいい例。「ショコラ」も、一昔前ならメジャー展開は考えにくいだろう。
 こうしたヨーロッパ作品のメジャー指向(ために、ミニシアターを標榜する館では、単館上映を可能にする秀作の発掘に苦慮しているようだ)の一方で、昨年あたりからは、若い世代の作家の手による日本映画の小作品にいいものが増えてきた。「初恋の来た道」(昨年のkoalaベスト1)などに代表される非香港系中国映画にも、完成度の高い作品が目立つ。一過性のブームに終わりかねない、あるいは終わってしまったインド映画や韓国映画ではなく、監督色の強い小作品が多い日本・中国の新鋭による映画が、今後のミニシアター界の鍵を握るのではないだろうか。

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第1位 「ショコラ」 <J・ビノシュ&J・デップ>
 北風。謎の母娘。チョコレート。ジプシー。音楽。ダンス。そして。。。恋!涙あり、笑いあり。最高の俳優陣の最高の演技によって届けられた、あったかなあったかな贈り物。観た人の誰もが皆、こんなにも笑顔になって劇場を後にできる作品は近年例を見ない。大人のための、ビター&スウィートな一級のファンタジーだ。J・デップ、かっこよすぎ!

第2位 「はなればなれに」 <J・L・ゴダール&A・カリーナ>
 野を駆け、川にはしゃぎ、踊り、恐れ、悩み、笑い、恋するキュートなカリーナを、堅物ゴダールのカメラが追う、追う、追う!ゴダールとカリーナの蜜月時代に作られた本作は、「これがゴダール?!」と目を疑いたくなるような愛らしい作品。製作から何と40年を経ての日本初公開となったこの作品に出会えたことだけでも幸せ。ゴダールも、恋に胸躍らせる、僕らとおんなじ一人の人間だったんだ。そう実感させられる。それにしてもカリーナはカワイイ。あのゴダールが、どんな顔して口説いたんだろね。

第3位 「マレーナ」  <J・トルナトーレ監督>
 ドラマティック、ときめき、笑い、悲しみ、美しきヒロイン、あっと言わせる伏線、そして音楽。古きよき映画の楽しみのすべてがこの作品の中にはある。多感な少年が、美しき女性への恋とも憧れともつかない思いを通して、社会を、人生を、そして男とは、女とは、愛とは何かを学んでゆく。このベーシック・ストーリーと、個々のエピソードとのバランスが絶妙。メジャー三作目にしてトルナトーレ監督は、遂に映画の真髄を我が物にしってしまったようだ。

第4位 「ふたりの人魚」
 今期の掘り出し物No.1。人魚になった恋人を探す男と、人魚に恋した男。何れ妄想か現実か。澱んだ河に臨む上海のダウンタウンを舞台に、孤独な二組の魂のドラマが交錯する。ファンタジックなストーリーと、「視線カメラ」を有効に用いた映像の完全なまでの融合を成し遂げた、みごとな脚本と演出に驚嘆を隠せない。しかもこれが、独立第一作という新人監督の手によるものとは!才能は経験によっては培われない。そのことを痛感させられる。ストーリー性、完成度ともに完璧といっていい快作。

第5位 「スターリン・グラード」 <J・ロウ&エド・ハリス>
 実際筆者が吐き気を催して観覧を中座しかけた、照準と照準とが狙いあう強烈な緊張感。いかにもアメリカン・スタイル、物量作戦で戦闘シーンの臨場感を出そうとして辟易感を醸し出してしまった「プライベート・ライアン」とはまさに対極。第二撃が許されない、一発必中のスナイパーという戦闘員の姿、目線から、戦争の現実を見事に描き出したこの作品。友情、愛情、敵兵への敬意といったヒューマンな部分と息詰まる戦闘シーンとのバランスも絶妙。そして通好みの配役にも唸らされる。基準を変えれば、今期No.1と言ってもいい秀作中の秀作。


筆者註:「初恋の来た道」は昨年のベスト(No.1)に入れてしまったので、今回のランキングからは除外しました!

<koala>

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