フランス短編映画祭2001 in Tollywood 2001/07/16

 下北沢の短編映画館<トリウッド>で開催されている(〜8/12)待望のフランス短編映画祭を早速観覧。
 各編平均10分弱、3プログラム(各1時間)計18作品。そして、特別上映としてパトリス・ルコントの「ボレロ」(再映)と「舞台の獣」、総計20作品が、約3時間半で一気に鑑賞できる。
 短編映画の魅力は、基本的にワン・エピソードであるということ。表現意図は簡潔明瞭。フィーリングが合うも合わないも、たかだか10分20分だけのこと。決して眠くなったり耐えられなくなったりなんてことはな
い。過ぎ去ったシーンを伏線に備えて覚えておく必要もない。目の前に展開される映像にただただ集中すればいい。人間が連続して集中できる時間はたかだか2〜30分。そういう意味では非常に観る者の間尺に合っているともいえる。
 筆者は大のフランス映画ファン。短編に関しても、この映画館でゴダールやジャック・リヴェットの作品(今回も8月にリバイバル上映予定)を経験済みで、長編に無い新鮮な感動を覚えたことが記憶に新しい。
 しかし、今回映画祭で上映される作品は、各賞に輝いた経歴を持つ作品も多いとは言え、上記のような後の巨匠のものではなく、新人作家の手によるもの。残念ながら、よく目にする日本製短編フィルムには、どう見て
も学生の習作、あるいは冗談半分のものが多く、予算の問題や詰めの甘さから、特に俳優の質や演技、演出に問題があるものが目に付くのが現状。それだけに、期待しつつも半信半疑での鑑賞だったわけだが・・・。いや、
杞憂とはこのためにある言葉じゃないのか?と思えるほど、息つく暇なく上映される作品のどれもこれも、そのあまりの完成度の高さとチャレンジ精神に満ちたアイディアの宝庫ぶりに、ただただ感嘆しきり。
 よく、短編映画は長編作家への通過点である、と言われるが、このラインナップを見る限り、まさに短編のための短編映画であることに気付かされる。もちろん、予算のない新人作家は短編しか作れなかったりするのだが、それなら、と開き直って、短編でしか表現し得ないものを作ろう!新しい実験をしてみよう!という、前向きな気概が各作品からは強く感じられるのだ。ストーリーで魅せる作品、撮影技法で魅せる作品、映像感覚で魅せる作品。実にバラエティに富んでいる。
 そして、こうした新人の挑戦を支えるベテラン国際俳優陣の出演もうれしい。せっかくの監督のアイディアが素人俳優の未熟な演技で台無しになってしまうという不幸は新進映像作家には付き物。ベテランの確実な演技と存在感は映画の完成度を確実に高めてくれる。逆に、大したことのない脚本が俳優の魅力で実力以上に評価されることもあり得るが、そこはフランスはじめ各国の批評家による選別をくぐりぬけてきた作品たち。俳優の力になんか頼ってはいない。俳優たちも心得たもので、ニュートラルな演技で監督の才気に敬意を払っている。
 こうした短編映画は、監督が後年よほどメジャーにでもならない限りビデオ化も再上映もされない、まさに一期一会モノ。とにかく、この貴重なイベントに、騙されたと思ってぜひ一度足を運んで頂きたい。絶対に損はさせません!!

 それでは、各プログラムから個別の作品のいくつかについて簡単にコメントしておこう。(「(X)」はXプログラムの意味。)

<ストーリーで魅せる!>
「妻についての幾つかの事柄」(A)監督:フレデリック・ペレ  ★★★★
 妻を失った老人が妻との思い出をすべてかなぐり捨てようとする、という着想と、男に対話相手を設定して主人公の暴走を止めた構成の妙。
「ミクロスネーク」(A)監督:ピエール・イブ・モラ/リオネル・バイリュウ ★★★
 引き伸ばせば標準作品にもなり得る脚本力。コメディとしてのオチの巧さ。
「気晴らし屋」(B)監督・脚本:フレデリック・シニャック   ★★★★
 主演のフィリップ・ナオンを見事に生かし、社会に蔓延する「評価」という行為のサディスティック性を批判的に描いた意欲作。
「神秘のヨーグルト」(B) 監督・脚本:シルビー・ゲラー  ★★★★☆
 クレーアニメ唯一のエントリー。緊張感あるサスペンスタッチのストーリーが見事。クレーの完成度もきわめて高い。クレーアニメはもともと製作の困難性から短尺作品が主流であり、他の作品とは一線を画す必要があるのかもしれない。
「ドラッグストア-麻薬についてのシナリオ」(B)監督:マリオン・ヴェルノ ★★★

 ドラッグを薦めながらドラッグの恐怖を説く、脚本力が見事。ヴァレリア・ブルーニ=テデスキが出演。               
<映像感覚で魅せる!>
「失敗」(A) 無声 監督:アダン・ホドロフスキ        ★★★
 チャップリンを思わせる1920年代の雰囲気から、終盤一転してモダンな抱擁シーンへ。この対照がいい。
「どつぼ」(B) 監督:アルメル・モルラン           ★★★
 【にらめっこ】のみに焦点を当て、笑いをこらえつつ相手を笑わそうと苦悩する二人の表情を三次元的に追う。緊張感が伝わる映像力に脱帽。
「イージー・マネー」(C) 監督:フィル・ドゥッソル    ★★★★☆
 逃走するアベック銀行強盗が機動隊と銃撃戦を繰り広げつつローラーブレードで街を駆け抜ける映像のスピード感があまりに見事。
「アポカリプス・カウ-子牛の黙示録」(C) 監督:アルノー・ドゥプレ ★★★
 つるし肉に向けて様々な体勢から発砲し続ける男。発砲という動作だけでこれほどの表現形態があるものかと驚かされる。
「女たらし」(C)監督:オリヴィエ・アッホイ&ブルーノ・メ−ル  ★★★
 ナンセンスな可笑しみと、歌手付き楽団の演奏で終わるという<映画的>なエンディングに感激。

<撮影技法で魅せる!>
「ランデヴー」(A) 監督:ピエール・アルフレッド・リシャード ★★★
 深夜のオペラ座を駆ける彫像の化身。残像処理を用いた疾走感が強く印象に残った。
「偽の天井」(C) 監督:フランソワ・ヴォ−ゲル       ★★★★
 頭、腕、足…縮尺の違う映像の切り貼りで人体を表現し、部屋をトーラス形に。そのアイディアの中でどんな遊びができるか、を追求した実験的作品。非常に新鮮な驚きを禁じえない。
「とことん・・・」(C) 監督:ロロ・ザザール        ★★★☆
 コマ落としをしつこく使うとこんなに面白い作品になった。ただの早回しなんだけど、なぜかあり得ない設定があり得るように思えてくるこの異次元感覚。

<特別上映4作>
「ボレロ」 監督:パトリス・ルコント            ★★★★
 一曲中同じリズムを刻み続ける「ボレロ」のドラム奏者を執拗にカメラが追う。意地悪な視点とターゲットの奏者の自意識過剰ぶりがおかしい。

「舞台の獣」 監督:ベルナール・ニシル           ★★★☆
 端役男優とトップ女優との関係を軸に演劇界の舞台裏事情を描き出す。長編に匹敵する込み入ったストーリーを短編化し得たことにむしろ驚きを感じる。デプレシャン監督作品の常連俳優たちが総出演。

「男の子の名前はみんなパトリックていうの」 ★★★★☆ (報告済)
監督:ジャン=リュック・ゴダール 
出演:ジャン=クロード・ブリアリ/アンヌ・コレット/ニコール・ベルジェ
 


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上映作品一覧
■Aプログラム
「妻についての幾つかの事柄」 ★★★★
原題:Des Morceaux de ma Femme
2000/10分 ドラマ
監督:フレデリック・ペレ 
2001年クレモンフェラン短編映画グランプリ、2000年カンヌ映画祭、2000年アカプルコ映画祭上映。

「失敗」 ★★★
原題:Echek
2000/3分 1920年代風無声映画
監督:アダン・ホドロフスキ
怪僧ラスプーチンはエッフェル塔で出会った女性に恋を。彼は愛の大きさを示そうとエッフェル塔に挑みかかるが・・・。本作が初監督作品となるアダン・ホドロフスキは、「エル・トポ」のアレッハンドロ・ホドロフスキの息子。

「僚友」 ★☆
原題:La Chambree 
2001/13分 ドラマ   
監督・脚本:セバスチャン・ルイ
2001ストラスブルグ映画祭グランプリ。
日中の厳しい教練と静まり返る夜の兵舎での兵卒の実情とを対照させて描く。

「夢の閃光」 ★★★
原題:Eclat de Reve 
1999/11分 
監督・脚本:パトリック・サヴァリオー
病床の娘を救おうと命がけで工場に忍び込んだ男、彼を追及する武装した警備員。舞台が病院に移ると、一転して映像は幻想的な色合いを帯びる。

「ミクロスネーク」 ★★★★
原題:Microsnake 
2000/9分 コメディ
監督:ピエール・イブ・モラ/リオネル・バイリュウ
人妻と間男が、ベッドに繋がれへびに襲われる美女と、彼女を救出する消防士、という設定での情事を楽しんでいる最中、突如夫から帰宅の電話。パニックに陥った二人は、へびが飲み込んだ手錠のカギを取り出そうと奮闘するが・・・
ハラハラ感と安堵感とが交互にやってくるリズム感のある脚本と、冴えのあるオチ。9分とは思えない濃い内容だ。 

「ランデヴー」 ★★★
原題:Rendez-vous 
2000/8分 バレエ映画  
監督:ピエール・アルフレッド・リシャード
深夜のオペラ座を駆け抜ける奇妙な影。存分に走り、踊り明かした<彼>は、夜明けとともに、もとの場所へと収まる。
疾走感を演出する残像を用いた映像処理が見事にハマッテいる。

■Bプログラム
「気晴らし屋」
原題:La Distracteur ★★★★ (上述)
2000/20分 近未来ブラックコメディ   
監督・脚本:フレデリック・シニャック  主演:フィリップ・ナオン(「カノン」「カルネ」)
地下道で通行人を和ませる気晴らし屋のアコーディオン弾き。彼の評価をアンケートする職員は、彼が有名な奏者だと知って、規則を破って彼に話し掛け、悪いアンケート結果を歪曲させようとするが、このアコーディオン弾き、実は・・・。

「神秘のヨーグルト」 ★★★★☆ (上述)
原題:Yaourts Mystiques 
2000/11分 アニメーション
監督・脚本:シルビー・ゲラー
コンティ映画祭審査員賞、ヴァンドーム映画祭審査員賞、他受賞多数。

「明日は明日の風が吹く」 ★★☆
原題:Demain est un autre jour 
2000/7分 社会派コメディ 
監督:ローレン・ティラー
彼女と別れ、仕事を失い、落ち込む男を励まそうとする友人。しかし、彼の励ましは逆に男を落ち込ませ・・・

「どつぼ」 ★★★ (上述)
原題:Tant va la cruche 
1998/5分 コメディ  
監督:アルメル・モルラン

「ドラッグストア-麻薬についてのシナリオ-」 ★★★ (上述)
原題:Le Drugstore 
2000/5分 社会風刺   
監督:マリオン・ヴェルノー

「地球は丸い」 ★★
原題:La Terre est Ronde 
2000/4分 ドラマ  
監督:ブリジット・コスカス
2001ヴァレンシエンヌ映画祭上映。
ダウン症の少女と健常者の子供たちとの交流。踏みにじられる少女の無垢で優しい心が悲しい。

■Cプログラム
「イージー・マネー」 ★★★★ (上述)
原題:Argent Content 
2000/18分 アクション  
監督:フィル・ドゥッソル

「バッド・コントロール」 ★★★ 
原題:Bad Control 
1999/5分 スプラッタ−  
監督:アルノー・ドゥプレ
2000カンヌ映画祭<短編の夜>上映。
怪しい大きなバッグを持った男がエレベーターに乗り込んだ。スプラッター・ホラーな夢から目覚めたエレベーター監視員は、モニターの中に展開する凄惨な現実に驚き、現場に駆けつけるが・・・。オチが笑える。ただ、映像は怖すぎる。

「偽の天井」 ★★★★ (上述)
原題:Faux Plafond 
1999/6分 実験アニメ
監督:フランソワ・ヴォ−ゲル

「アポカリプス・カウ-子牛の黙示録」 ★★★ (上述)
原題:Apocalypse Cow 
1999/4分 アクション  
監督:ダビット・ジャンコウスキ
ありとあらゆる体勢からつるされた牛肉を射撃する男。

「女たらし」 ★★★ (上述)
原題:Le Tombeur 
2000/7分 シュール   
監督:オリヴィエ・アッホイ&ブルーノ・メ−ル

「とことん・・・」 ★★★ (上述) 
原題:A Donf・・・ 
2000/13分 コメディ  
監督:ロロ・ザザール


なお、上映作品や映画館の詳細は、
短編映画館<トリウッド>
http://homepage1.nifty.com/tollywood/
フランス短編映画祭2001 公式サイト
http://homepage1.nifty.com/tollywood/fcmf/fcmf2001.htm
を参照されたい。

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