真夜中まで 2001/08/23

 和田誠初のオリジナル脚本作品。 
 外国人ホステス・リンダ(ミシェル・リー)は、恋人で店の会計士・佐久間が経営者の用心棒に殺される現場を目撃し、追われる身に。一方、ジャズバンドのトランペッター守山(真田)は、ライブハウスでの幕間に、彼らの脅迫を受ける彼女を目撃。こうして、無関係な二人の逃避行が始まる。彼女は、店がホステスから搾取した金を取り戻すべく佐久間がつかんだ裏取引の証拠を探していた。彼女は守山に協力を願い出るが、彼は有名な米国のジャズ奏者の来訪を受けての大切なミッドナイトステージを1時間後に控えていた・・・。

 ジャズ、サスペンス、ラヴ、真田広之、月の砂漠。そして、端役から準主役まで、贅沢かつ適材適所に配されたサービス精神豊かな実力派俳優たち。そして、ドラマの作りこみに徹した小スケール指向が、B級香港映画風の裏町を舞台にしたサスペンスタッチな展開と見事に符合。バランスのいい映像空間を作り出している。警察手帳が乱舞し、最後まで誰が真の味方かわからないというサスペンスとしての展開の厚さも見応えがある。その一方で、ややもすると重く切ない印象を与えそうなそうしたストーリーの中で、俳優自身の個性を前面に出すことを許されたベテランたちが、出演し演技することを心から楽しんでいる様子が観客にも伝わってきて、これまた絶妙のバランス感覚。観終わった瞬間、思わず拍手したくなる快感を覚える(実際何人かの観客が拍手していた!)。こうした衝動を覚えるのは日本映画ではとても珍しいことだ。そしてその時、目頭には、クライマックスで奏でられたペットによる「月の砂漠」がほとばしらせた涙がまだ乾かずにいる。まるで操り人形のように監督の意のままに自分がされているような気がして、とても心憎い!

 それにしても驚かされるのは、これほどにアジアンな雰囲気を醸し出すロケーションが日本にあるのだということ。ロケは23区を中心に行われ、見覚えのある風景も多く登場するのだが、綿密なロケハンと繊細なアングルの賜物だろう、ジャズメンと外国人ホステスの逃避行に相応しい、ジャンキーでありながら洗練された無国籍タウンが見事にスクリーン上に形作られている。

 予告編で「キャバレー」を髣髴とさせるジャズの調べに酔い、鑑賞すべしと心に誓った人も多いと思うが、本作に限って、その印象が裏切られることは決してないと断言できる。ジャズ、真田広之、ミッシェル・リー・・・どれかがアンテナに引っかかったならば、ぜひとも劇場に足を運ばれることをオススメする。

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