ムーラン・ルージュ! 2001/10/25

koalaのスカイシアター 

 今号は、オランダ出張中のkoalaより、往路の飛行機内で幸運にも日本公開前に、しかも全編吹き替え付きで鑑賞できた新作の紹介をさせていただきます。ミニシアター系ではないですけれど、お許しあれ。

■「ムーラン・ルージュ」(2001豪=米) 評価:★★★★☆
監督/バズ・ラーマン(「ロミオ+ジュリエット」)
出演/ニコール・キッドマン、ユアン・マクレガー

□あらすじ
 世紀末の1900年パリ。歌姫にして高級娼婦である一人の美女サティーンを巡って夢のナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」を舞台に燃え盛る、ジプシー劇作家・クリスチャンと公爵との恋の鞘当て。

□みどころ
 この作品の感想を一言で表すなら、まさに「完璧」。ミュージカル、コスチューム劇、喜劇、ラブストーリー、ファンタジー、悲劇・・・。あらゆるジャンルに属していて、そのどのジャンルにも収まらない。1900年=時代劇?でも、そこで詠まれ歌われる唄はマドンナでありビートルズでありエルトン・ジョンである。そんなバカな!じゃぁさぞかしナンセンス?
いやいや、それがウソのように違和感なくシックリ来る不思議なテイスト。ハマればハマるものである。
 思えばこの監督、前作の「ロミオ+ジュリエット」でも時代劇を強引に現代に置き換える試みをしていて、レオ様の出演叶ったがためにそれなりの評価を得てしまっていたのだが、あれは冗談にも誉められた作品ではなかった。単純に時代だけを現代に持ってきて基本的な物語の設定を変えなかったがために、人物設定不明の荒唐無稽なお話に終わってしまっていた。
 が、本作は全く違う。パリであってパリでなく、19世紀であって19世紀でない国籍・時代不詳の不思議空間を、主演俳優たちによるキレ抜群の歌と踊りと演技とで形作り、脇役の道化たちが絶妙の合いの手で盛り上げる。脚本・演出・演技が見事にかみ合って、瞬きする間さえ惜しまれるような興奮と驚きに満ちた夢の二時間を実現して見せた。画面に弾ける星のかけら、早回し遅回し自在の映像処理、万華鏡のような舞踏の構図・・・。スクリーンいっぱいに詩が流れ音符が踊るノンストップのスペクタクル映像は奇跡と言ってもいい。いまだかつて体験したことのない感覚に戸惑う暇もなくファンタジックな異次元空間へと観客をトリップさせてしまう。
 「恋に落ちたシェークスピア」「から騒ぎ」「EMMA」「雨に唄えば」・・・。私たちを幸せな気分にさせてくれたこうした作品たちのエッセンスがすべて詰め込まれて余りある。
 本作の成功には、トリッキーな編集に負けることなく監督の演出意図を理解し実現した俳優の確かな演技力が大きく貢献している。とにかく終わった瞬間拍手したくなる異様なまでの完成度の高さに驚くばかり。とりわけ圧巻は、クリスチャン渾身の演劇を成功させるためにサティーンが公爵邸にわが身をささげるべく出向くシーン。演劇も大事。でも彼女も大事。演劇のために恋を葬るべきなのか?自分のためとはいえ娼婦の本性を現した彼女を受け入れられるのか?彼女を止めるべきかあきらめるべきか?クリスチャンの、そして劇団員すべての葛藤が畳み掛けるようなめくるめく映像で綴られている。
 しかし、不幸にして開始10分以内にこの演出に乗り遅れたなら、評価は一気に最低点に落ちてしまうだろう危うさを本作は秘めている。心を無にして監督の術中にはまってハッピーをしかと手に入れられるように、万全の体調でスクリーンに向かおう!お菓子なんかほおばって片手間に鑑賞することなど本作には許されないのだ。
 余談だが、ムーラン・ルージュといえばロートレック。主人公と同じボヘミアンの道化役の一人にこの名前を冠したのは、この夢の館を愛したこの画家へのオマージュだろう。このあたりのサービス精神も心地いい。

<koala>

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