アメリ 2001/11/22

■「アメリ」(2001年 仏) 評価 ★★★★ 
監督/ジャン=ピエール・ジュネ
出演/オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ
受賞/2001年度カルロヴィヴァリ国際映画祭グランプリ受賞/エジンバラ国際映画祭オープニング作品・観客賞受賞 ほか
<渋谷・シネマライズにて公開中、札幌/神奈川/大阪/京都/神戸/福岡で公開予定>
 
□あらすじ
 学校にも行けず、ヒステリックな母と冷酷な父の許で孤独に育った少女・アメリは、空想の中にひとり生きてきた。大人になって外の世界に出た彼女は、まわりにいる自分の同類たちの心がよくわかる。孤独の殻に閉じこもるそんな人々の心を解き放つべく、知恵を絞って時には嘘までついて、あの手この手で殻を破ろうと奔走するアメリ。ある日、一人の「同類」の男の子に強い引力を感じる。果たして、彼女が振りまいたやさしい悪戯は、彼女自身にハッピーエンドをもたらすのだろうか?

□みどころ
 「ムーラン・ルージュ」に引き続き、嬉しい監督の裏切りに逢ってしまった!そんな気分だ。
 そう、この作品の監督ジャン=ピエール・ジュネは、あの人肉食を描いたおぞましい奇作「デリカテッセン」、そして大男とクローン人間と子供たちの入り乱れる近未来映画「ロスト・チルドレン」という、芸術性の高さは認めるけれども、どうも素直に好きにはなれない「問題作」を世に送った人。なぜか連作「エイリアン」の第4編だけを担当していたりもするけれど、要はグロ系作品でキャリアが塗り固められてる。
 この「アメリ」の宣伝と、「幸せになる」というコピーを見たときに、「うわぁ、これはイケそう」と直感はしたけれど、監督名を見て一瞬ひるんだのも事実。しかも上映館は「いままで誰も見たことのない映画」を作品選定の基準に据える「シネマライズ」。ますます怖い。何か秘密があるにちがいない。
 それでも意を決して(そんな大げさな)観に行って、本当によかった。とにかく脚本がいい。基本的には彼女が自分の殻を破って幸せになろうとする物語なのだけれど、その過程でまず、自分と同じように人生の罠にはまって殻に閉じこもってしまった周りの人々に殻を破るきっかけづくりをする「活動」を始めてしまう。この回り道がとても楽しい。そして、対人恐怖症的な彼女ならではの、「ストレートじゃないきっかけの作り方」が、恩着せがましくなくてこれまたgood。偶然を装って電話ボックスに、ね!それを陰でこっそり、ね!!観た人はわかるでしょ?そしてこの「活動」はどんどんエスカレートして、彼女は熱中してしまうんだけど、いざ自分のこととなるとなかなかあと一歩が踏み出せない。肝心の彼氏にまで回りくどい謎をかけちゃったりして。こうした展開は、どこか「から騒ぎ」(エマ・トンプソン)や「EMMA/エマ」(グウィネス・パルトロウ)を髣髴とさせて、はらはらドキドキ、観ている方まで恋のときめきの感覚に陥ってしまう。そして、必ずしもこうした彼女の「活動」の全てが全て成功するわけでもない、というあたりが、物語やアメリの存在をファンタジーにしてしまわずに現実世界に止めてくれている。そしてそして、落ち込み迷う彼女の背中を最後に一押ししてくれるキューピットは、意外な人物だったりもする。また、少し前に話題になった、「居なくなったお人形と不思議な写真」(←わざとわかりにくく書いてます!)の実話エピソードまでちゃっかり盛り込まれていて、ほんと、楽しみが尽きない。
 と書いてくると、じゃあ監督は作風を変えたの?という疑問も生まれてくるが、いえいえ決して。しっかりグロいシーンも混ぜてくれてるし、なんといってもスピード感を増すためのマンガチックな映像処理が怒涛のオンパレード。森田芳光もびっくりだし、「ムーラン・ルージュ!」とも偶然の一致といっていいほど共通したテイストを醸し出している。ここはひとつ、ジュネ監督の過去の上記に二作品をビデオで観た後で本作を鑑賞されることをオススメする。そうすると、監督のテイストと無縁な物語に敢えて顔を覗かせる彼の抑えきれない趣味が、どこかほほえましく思えてくるのだ。
 無垢な魅力を発揮する主演女優オドレイ・トトゥは「エステサロン/ヴィーナス・ビューティ」でデビューしたばかりの新人ながら、「アメリ」というつかみどころのないキャラを見事に体現して作品を終始引っ張っていて、実に頼もしい。彼女の美しさを常に大写しでたっぷりと楽しめるのもまた、本作の魅力の一つである。

<koala>

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